各種検査・治療

  

人工授精

人工授精は、女性の生殖器官(子宮・膣)に、人工的に精子を注入する方法です。人工授精には、AIH(配偶者の精子を注入する方法)とAID(非配偶者の精子を注入する方法)の2種類があります。当クリニックではAIHのみを行っています。

人工授精の方法

人工授精は、受精の確率を少しでも高くするため、排卵後、卵子の状態が良い間に行う必要があります。(卵子の生存期間は8~12時間、もしくは12~24時間といわれています。)排卵の時期を調べて、適当なタイミングで人工授精を実施します。

排卵時期を調べる方法

  1. 基礎体温測定
    過去の排卵がいつ起こったのかを調べ、該当周期の排卵日を予測します。月経不順の方は予測が難しい場合があります。
  2. 月経周期の14日目を目安にする方法
    排卵は通常、月経周期の14日目に起こります。排卵の時期には個人差があり、周期によっても変わるため、必ず14日目とは限りません。
  3. 超音波検査
    卵胞の大きさを測定して、排卵日を予測します。排卵近いサイズ(自然周期では直径15~25 mm、排卵誘発周期では直径23mm以上)になったら、人工授精を実施します。
  4. 血液検査・頸管粘液検査
    血液中のエストロゲン濃度、頸管粘液の性状などを診て、排卵日を予測します。
  5. 尿検査(試験紙)
    脳下垂体から分泌されるホルモン(LH:黄体化ホルモン)を測定して、排卵日を予測します。黄体化ホルモンがパルス状に出る時期(LHサージ)が始まってから、24~36時間後に排卵が起こるといわれています。
  

月経周期の12日目頃から、毎日試験紙を使って尿検査を行います。当クリニックでは医療用の試験紙を使用しますが、市販の試験紙もあります。判定が陽性になったら、LHサージが始まったと判断し、当日~翌日に人工授精を行います。LHの基準値が高い方(多嚢胞性卵巣の方など)は、試験紙が排卵時期に限らず陽性になるため、この方法は使えません。

排卵誘発について

タイミング法と違い、人工授精ではより確実に排卵が起こるように、卵胞が十分大きくなったら、必要時応じてhCGの注射やGnRHアナローグの点鼻を行い、人工的にLHサージを作ります。LHサージの翌日に人工授精を行います。

排卵が自然には起こりにくい方(排卵障害)や排卵周期が不規則な方は、排卵誘発剤の内服や注射を行い、卵巣を刺激する必要があります。 排卵誘発周期でも同様に、排卵の時期を調べ、必要に応じてhCGの注射やGnRHアナローグの点鼻を行って人工授精を行います。

当日の流れ

  1. 採精は当日の朝に行います。 2時間以内に精子を持参できる方は、御自宅で採精して、ご持参いただきます。ご持参いただかない場合、当クリニックの採精室にて採精してください。採精室を利用する際は、予め予約をお願いします。
  2. 精子は洗浄の後、スイムアップ法(下図)により質の良い精子を回収して注入します。 処理には約2時間を要します。人工授精は細い注射器の中に精子を入れ、細いカテーテルチューブを子宮内に挿入して慎重に注入します(下図)。
  3. 人工授精の当日は激しい運動をしない限り、普通の生活を送ることができます。

人工授精後

  1. 感染予防のため授精日から2日間は抗生物質を内服します。
  2. 可能であれば、2日後に超音波検査で排卵の有無を調べます。排卵していない場合は、再度人工授精を行うことがあります。
  3. 1週間後、黄体機能検査のため、超音波検査により子宮内膜の厚さを測ったり、血液中のプロゲステロン濃度を測定することがあります。検査で黄体機能不全が認められる場合には、次の周期に黄体ホルモンの補充を行います。

人工授精の適用条件(事前検査)

  1. 子宮・卵管に異常の有無
    人工授精を行うにあたり、予め子宮・卵管などに異常がないことを確認する必要があります。授精後に育った受精卵、胚が着床できなくなることを防ぐため、子宮に粘膜下筋腫、子宮腺筋症、子宮中隔、重複子宮などの構造的な異常がないことを確認します。検査は、超音波検査、子宮卵管造影検査や子宮鏡検査で行い、以下の点を確認します。
    1. 卵管の通過性
      排卵した卵子が卵管の中に入れなければ授精できません。精子も卵管を上がって行くことができません。卵管の通過性があるかどうかの検査は必須です。
    2. 卵管水腫の有無
      卵管の通過性が悪いと、卵管の中で作られた粘液が溜まって、水膨れの状態になります。
    3. 卵管の周囲の癒着の有無
      卵管の通過性は子宮卵管造影検査で診断できますが、卵管周囲の癒着の診断は難しいです。正確な診断には腹腔鏡検査が必要ですが、腹腔鏡検査を受けるか否かは個別に判断します。
  2. 精液検査
    1. 精子・精液の量的、質的異常
      • 乏精子症:精子濃度1500万/ml未満
      • 精子無力症:精子運動率40%未満
      • 乏精液症:精液量1.5ml未満
    2. 射精障害、性交障害
      • 逆行性射精:膀胱内に射精してしまい、精液が体外に排出されない疾患
      • 射精障害
      • インポテンツ、高度な膣狭窄などによる挿入困難
    3. 精子ー頸管粘液適合不全
      • 抗精子抗体陽性:精子が子宮内で、動けなくなります。
      • 頸管粘液分泌不全:精子が卵管まで到達する第一関門である頸管から先へ進みにくくなります。
      • 性交後試験(フーナーテスト)陰性:精子の問題や頸管粘液分泌不全抗精子抗体陽性が考えられます。
    4. 機能性不妊
      • 夫婦ともに明らかな不妊の原因が分からず、かつ諸々の治療を試みても妊娠にいたらない場合。
  3. 感染症の有無
    以下の場合には、感染の治療を優先させます。
    1. 夫にウイルス・細菌感染が認められる場合:精液を介して妻に感染している可能性があります。
    2. 子宮や卵管に感染がある場合:人工授精の刺激により感染が悪化することがあります。

細菌感染やクラミジア感染については抗生物質で対応が可能です。ウイルス感染(B型肝炎、C型肝炎などのウイルス、HIV、その他未知のウイルス)の対応は難しくなります。

人工授精の精子処理では、精子の洗浄を行います。通常の性交渉に比べて、人工授精がそれらのウイルスに感染するリスクを高くするのか低くするのかについてのデータは見たことがありません。

人工授精を実施する前に、夫婦で十分話し合い、ウイルスの検査を希望する方は申し出てください。検査結果が出るまで1週間程はかかります。人工授精を受けることが決まったら、直ぐにその旨をお知らせください。実施項目は血清梅毒反応、B型肝炎ウイルスS抗原、C型肝炎ウイルス抗体、HIV抗体、クラミジア抗体です。

HIVに関して、日本産婦人科学会より「現状では精漿よりHIVを完全に除去する方法が確立されていないことを鑑み、HIVに罹患した夫から採取した精液を用いたAIHを行う場合には、当該夫婦から感染の可能性を含めた十分なインフォームド・コンセントを得るとともに、実施にあたっては1例ごとに施設内倫理委員会で審査を受けることが望ましい」と通達が出ています(平成15年1月17日付)。

「新しい生殖医療技術のガイドライン(改定第2版)」(2003年)では「近年、HIV除去技術が進歩し、感染確率が極めて低くなったことを受けて、本邦でもHIV感染男性精液を用いたAIHや体外授精が試みられている。 しかし一方、安易な方法のもとでのAIH実施により、妻が感染した例も発生したとの報道もみられた。 本法の実施は、HIV定量が可能な専門施設で行うべきものと考える。」(丸山哲夫・吉村泰典)とあり慎重な対応は必要です。

副作用

人工授精に際しておこる副作用は以下の通りです。

  1. 出血
    子宮内腔から出血することもありますが、子宮頸管が細い方、屈曲している方の場合には子宮頸部を鉗子で把持して少し引きます。出血のほとんどは鉗子で把持する際に起こるものですので、一過性でおさまることが多いです。
  2. 疼痛
    原因は、カテーテル挿入に伴うもの、鉗子を使った場合、子宮の一過性の収縮、腹膜刺激症状(注入液が卵管から腹腔内に漏れために起こる刺激症状)があります。安静によりほとんどは軽快します。必要な場合には鎮痛剤を用います。
  3. 感染
    子宮、卵管、腹腔内に感染が起こる可能性があります。予防のため、抗生物質を2日間内服します。下腹部痛、発熱、異常な帯下などの感染症状が現れた場合には受診してください。

成績

人工授精全体の妊娠率は周期当たり5~20%と報告されています(Duran HE ら、Hum. Reprod. Update 8:373-384,2002).

5~6回の人工授精で妊娠に至らない場合には、腹腔鏡などによる原因検索や体外授精のような、より高度な治療が必要であると考えます(下図参照)。ただし、患者様の年齢や考えなどを考慮して、個々に対応します。

人工授精の例

  1. 月経5日目より5日間クロミフェンを内服します。
  2. 2~3日後に受診、頸管粘液の性状、超音波検査で卵胞の大きさ、子宮内膜の厚さを測ります。採血をして血液中のエストロゲン濃度を測定します。
  3. 卵胞が十分大きくなっていれば、尿検査によりLHサージ(脳から出る排卵の指令)が起こっているか否かを調べます。LHサージが起こっていれば翌日にAIHを予定します。LHサージがまだ起こっていない場合は、hCG5000-10000単位の注射かGnRHアナローグの点鼻を行い、翌日にAIHを予定します。
  4. 卵胞がまだ十分大きくなっていない場合は、適当な日に(通常は1~3日後)に受診し、同様の検査を行います。
  5. AIH当日は、採精した精子の検査・処理を行います。準備ができたら、診察台にあがり、AIH(調整精子の注入)を行います。
  6. 抗生物質を1日3回、2日間内服していただきます。
  7. 2日後に超音波検査で排卵の有無を確認します。排卵せずにまだ卵胞が残っていたら状況により、再度AIHを行います。
  8. 約1週間後に超音波検査で子宮内膜の厚さを測定します。血中プロゲステロンの測定を行い、黄体機能検査を行います。

漢方療法

妊娠が成立するためには卵管膨大部で排卵した卵子と精子が出会う(受精)必要があります。受精した卵(受精卵)は分割しながら約1週間をかけて子宮に辿り着き、準備が整った子宮内膜の中に侵入定着(着床)して、妊娠が成立します。

漢方薬は長い使用経験の歴史から、新薬のような臨床試験(動物実験を経て、ヒトにおいて効果や副作用を確かめ、有効性と安全性を国に認めてもらうための試験)を経ることなく健康保険が適用されます。エキス剤の開発によって、ロット間の成分格差が無くなり(薬を作った時期などによって薬効成分にばらつきがない)、薬剤としての規格が統一され、漢方は西洋医学を習熟してきた日本の医師にとっても使いやすいものとなりました。

漢方薬は、一つの処方でもいくつかの生薬を組み合わせて使います。処方を決定するためには西洋医学的な診察だけでは判断が難しいため、東洋医学的な診断方法が必要です。診断の基本は「証」。簡単に説明するならば、患者さんの現在の症状や体質、性格、気質などを東洋医学的に総合的に判断して、処方に結び付けるための診断方法です。腹診などを総合して処方を決定します。

漢方療法では、全身の「気」、「血」、「水」の変調を整える(心身のバランスの崩れを正常に戻す)ことを目指します。特に女性は月経というサイクルを持ち、約30日という短いサイクルのなかで心身共に大きな変化が起こります。バランスがくずれやすくなりがちです。

不妊症の治療において、漢方の効果を期待する疾患は卵巣機能不全です。以下が期待できる効果です。

  1. 骨盤内血流の改善
    女性では骨盤内の血流が滞りがちです。骨盤内には子宮・卵巣・卵管と女性の特徴である臓器が集まっています。「女性は下半身を冷やしてはいけない。」と年輩の方がよく話していたことを思い出しますが、温めることによる血流の改善効果を昔の人々は知っていたのでしょう。卵巣への血流を改善すると、脳から卵巣へ、逆に卵巣から脳へのホルモンの流れが良くなります。卵巣内でのホルモン産生を活発にして、卵巣機能を元気にする効果も期待できます。卵巣ホルモンの子宮への流れを良くして、子宮内膜の反応を改善し、着床しやすい内膜を作るのに効果があると考えられます。
  2. 自律神経のバランスを整える
    精神的および身体的ストレスは自律神経のバランスを乱して、ホルモンバランスを破たんさせます。それによって排卵が起こらなくなったり、無月経になったりします。漢方で自律神経のバランスを整えて、ホルモンバランスを整える効果が考えられます。
  3. 中枢神経に対する作用
    不妊症の治療でしばしば使われる温経湯(うんけいとう)は排卵障害を改善することが知られています。この作用は性中枢に作用して下垂体ゴナドトロピンの分泌を改善することが西洋医学的に解明されております(後山尚久)。
  4. 男性不妊に対する効果として
    造精機能を活発にする、精子数を増やす、運動率を改善するなどが期待されます。証をもとに処方を選択します。

子宮卵管造影検査

子宮内部の形や状態、卵管が詰まっていないかを調べるための検査です。子宮の中に造影剤(X線で白く写る液体)を注入して子宮内、卵管に造影剤が入っていく過程をレントゲンで観察します。軽度の閉塞の場合、造影剤が通過するときに開通することがあります。検査と同時に治療になることがあるため、検査後数ヶ月は妊娠しやすくなると考えられています。

検査時の痛みについて

卵管に造影剤が入る時の圧力や子宮への刺激で、痛みを感じることがあります。特に卵管が狭くなっている、または閉塞している場合は、痛みを感じることが多いです。

検査時期 月経終了後、外来で行います。
所要時間 5分程度
診断
  1. 卵管閉塞(卵管が詰まっている)
    造影剤が閉塞している部分までしか到達できず、その先は写りません。
  2. 卵管狭窄(卵管が狭くなっている)
    造影剤の進みが悪くなります。
  3. 子宮内腔を圧迫する子宮筋腫やポリープがある
    筋腫やポリープのある部分の造影剤が写りません。子宮の形の異常(双角子宮など)もわかります。
  4. 卵管水腫(卵管が閉塞して中に水が溜まっている状態)
    卵管が太くなり、袋の様に写ります。
  5. 卵管周囲の癒着
    卵管から漏れ出た造影剤が広がっていく様子や、卵管が極端に引き延ばされた状態、またはコイリング(コイルを巻いたような状態)などから診断できます。正確な診断には、腹腔鏡での検査が必要です。

副作用

  1. 出血
    子宮内に造営用のチューブを挿入するため、出血することがあります。
  2. 疼痛
    子宮が収縮する痛み、子宮卵管に圧力がかかる痛みなどがあります。痛みは自然に治まりますが、痛みがひどい場合は鎮痛剤を使用します。
  3. 感染
    子宮、卵管、腹腔内に感染がおこることが稀にあります。感染を防ぐため、検査後3日間は抗生物質を内服していただきます。
  4. 薬剤のアレルギー
    造影剤により発疹、呼吸困難などアレルギーが起こる場合があります。その場合は、検査の中止や治療が必要になることがあります。

子宮鏡検査・子宮鏡下通色素検査・腹腔鏡検査

子宮鏡で診断できる疾患

  1. 内膜ポリープ
    不妊の原因であると予想した場合には、後日当クリニックで切除術(日帰り手術)を行います。
  2. 粘膜下筋腫
    不妊、流産、不正出血の原因であると予想した場合には、子宮鏡下筋腫切除術※を行います。
  3. 子宮中隔
    不妊や流産の原因であると予想した場合には、外科的な治療が必要です。腹腔鏡手術と子宮鏡手術※を同時に行います。
  4. 子宮腔癒着症
  5. 合併症
  6. 子宮穿孔
  7. 感染症
  8. 出血

※ 入院・手術はアルテミス ウイメンズ ホスピタルでおこないます。

子宮鏡検査

子宮の中の病変の有無を検査するために子宮鏡を用いて直接検査することは有力な方法です。内視鏡の進歩により、細くて屈曲する内視鏡が開発され、外来で麻酔を用いて、子宮頸管(子宮の入り口)を拡張することなく、子宮腔内を容易に観察できるようになりました。

従来から、子宮の中の病変の有無を検査するために超音波検査や子宮卵管造影を用いており、子宮内膜ポリープや子宮腔内に突出した子宮筋腫など子宮内の病変や、子宮奇形などの構造異常の疑いがある場合は子宮鏡検査を行います。

子宮の中に病変や構造の異常があると、受精卵の着床や発育が障害されて、不妊症や不育症の原因になる場合があります。従来から用いられている超音波検査や子宮卵管造影では異常が発見できない場合があります。

子宮鏡下通色素検査

子宮卵管造影検査で卵管の通過障害が疑われた場合には、子宮鏡下通色素検査を行います。子宮鏡で子宮から卵管に通じている卵管口に直接色素を注入することにより、卵管通過障害の確定診断を行います。卵管に直接圧力をかけて色素を通過させることによる卵管開口術の意味合いもあります。

卵管周囲や卵管采の癒着が疑われる場合には、腹腔鏡手術を行うことも可能です。子宮筋腫、卵巣嚢腫、子宮内膜症なども腹腔鏡手術を行います。簡単な手術であれば2泊3日で退院可能です。手術はアルテミス ウイメンズ ホスピタルで行います。

精巣内精子採取

当クリニックで無精子症の診断を受けた方は、男性不妊治療を行っている泌尿器科へご紹介し、精巣内精子採取を受けることができます。採取し凍結保存した検体を当クリニックへ輸送し、体外受精に用いることも可能です。

感染症検査

当クリニックで手術、採卵をされる方には術前検査として感染症の検査を行っています。

ホルモン採血検査

不妊治療で検査するホルモンとは、視床下部・脳下垂体・卵巣で作られるホルモンを指しています。ホルモンによって働く時期は異なるため、それにあわせて測定を行います。

脳下垂体から出るホルモン

  1. FSH(卵胞刺激ホルモン)
    卵胞期(月経~排卵の期間)に分泌されて、卵巣に働きかけ、卵胞を大きく育てるためのホルモンです。卵巣で作られる卵胞ホルモン(エストラジオール)がFSHの分泌を調整します。更年期に入り、卵巣の機能が低下するとエストラジオールを作る能力が衰えていきます。脳はそれを感知してFSHの分泌を盛んに行います。したがって更年期になると血中FSH濃度は上昇します。これは更年期症状を引き起こす原因の一つといわれています。
    測定時期 月経開始3~5日目
    基準値 9mIU/ml以下(月経中の血中濃度)
    ※ 10mIU/ml以上の場合、卵巣の働きが低下している可能性があります。
    評価 検査を行った周期の卵巣の働き(卵胞が順調に育って排卵する能力)や卵巣の予備能(卵巣に残っている卵子の数)を評価する指標の1つです。
    より正確に卵巣の予備能を知るためにアンチ・ミューラリアンホルモンを測定することをお勧めします。
  2. LH(黄体化ホルモン)
    排卵の24~36時間前からパルス状に分泌(LHサージ)されるホルモンです。LHサージが始まってから36~40時間、またはLHサージのピークから24時間で排卵するといわれています。検査によって、排卵の時期や多嚢胞性卵巣症候群の可能性の有無がわかります。
    測定時期 月経中(採血)、排卵期(採血、尿の試験紙)
    基準値 LHがFSHより低い(月経中)。10mIU/ml未満
    評価 月経中、LHがFSHより高い場合は、「多嚢胞性卵巣症候群」の可能性があります。排卵が近づいたとき、尿の試験紙により排卵がわかります。
  3. PRL(プロラクチン)
    乳汁分泌に重要なホルモンです。また、細胞の増殖や機能に必須の因子であり、卵胞の発育や卵の成熟を促進すると考えられています。
    測定時期 月経3~5日目
    基準値 30ng/ml以下
    評価 妊娠中・授乳中以外で血中濃度が高すぎる場合は、高プロラクチン血症と診断します。高プロラクチン血症では、排卵障害や黄体機能の低下が起こるため、プロラクチンを下げる内服薬を処方します。血中濃度が低すぎる場合、ホルモンを分泌する下垂体の障害が明らかになることがあります。
  4. TSH(甲状腺刺激ホルモン)
    甲状腺機能のスクリーニングとして検査するホルモンです。甲状腺機能の異常には機能亢進症と機能低下症があります。特に機能低下症は不妊症や流産の原因になります。
    測定時期 特になし
    基準値 0.2~2.5μIU/ml
  5. 卵胞ホルモン(エストラジオール:E2)
    卵胞から分泌されるエストロゲン、所謂女性ホルモンの代表です。子宮に働きかけて、排卵の準備をさせるホルモンです。
    • 子宮内膜を厚くして、着床の準備をします。
    • 子宮頸管から分泌される頸管粘液(おりもの)の量を増やします。
    測定時期 月経周期の様々な時期
    基準値 月経中 20~80pg/ml
    卵胞の成熟度を調べる時 排卵直前の卵胞1個につき約200pg/ml (例)排卵直前の卵胞2個の場合は約400pg/ml
    評価 基準値より低い場合は、卵巣機能が低下しているか、卵胞の発育がよくない可能性があります。

    基準値より高い場合は、前の周期の卵胞が残っている可能性があり、今の周期の正常な卵胞の発育の妨げになることがあります。

  6. 黄体ホルモン(プロゲステロン;P4)
    黄体(排卵後の卵胞)から分泌されるホルモンです。子宮内膜を変化させて、着床できる状態にします。卵胞の発育がよくないと排卵後の黄体ホルモン分泌が悪くなり(黄体機能不全)、不妊症になることがあります。
    測定時期 高温相中期
    基準値 10ng/ml以上
    評価 10ng/mlより低い場合は、黄体機能不全と診断します。
  7. テストステロン(T)
    卵巣から分泌される、いわゆる男性ホルモンです。
    測定時期
    基準値 40ng/ml未満
    評価 40ng/ml以上の場合は、「多嚢胞性卵巣症候群」の可能性があります。

淋菌/クラミジアPCR検査・クラミジア抗体検査

淋菌・クラミジア感染症は、卵管の閉塞による不妊症の原因の1つです。クラミジア感染の既往歴を調べます。卵管のみに感染している場合、PCR検査では確認できないため、抗体検査が必要です。

アンチミューラリアンホルモン検査

卵巣予備能(卵巣に残っている卵子の数)を調べる検査です。検査結果はあくまで数の目安であり、卵子の質を示すものではありません。月経周期が整っていても、AMHが低下している場合があります。年齢や月経の状態にかかわらず、検査することをお勧めします。

測定時期 特になし
評価 AMHの値が高すぎる場合は、多嚢胞性卵巣症候群の可能性があります。

体外受精・胚移植

体外受精・胚移植(IVF-ET)の適応条件

以下が体外受精・胚移植の絶対的適応の条件です。

  1. 両側卵管が完全閉塞しているか、あるいは手術で卵管を取ってしまった卵管性不妊
  2. 無精子症のうち、精巣あるいは精巣上体に成熟精子が認められる男性不妊症例

その他の適応条件

  1. 乏精子症、精子無力症があり、その原因究明のために専門医による診察・検査が行われ、治療が一定の期間行われたにもかかわらず回復が認められず、人工授精によっても妊娠成立にいたらない場合
  2. 女性に抗精子抗体が存在して、それが原因で人工授精まで試みても妊娠が成立しない場合
  3. 積極的卵巣刺激(排卵誘発)や人工授精を試みたにもかかわらず妊娠に至らない場合 (現在の医学水準では分からない不妊因子、原因不明不妊によって妊娠の機会を失わないために適応されます。)

以上の条件に加え、治療歴や対象者の年齢を考慮した上で決定します。

日本産婦人科学会の適応条件

日本産科婦人科学会は、体外受精・胚移植の適応を「本法は、これ以外の医療行為によって妊娠成立の見込みがないと判断されるものを対象とする。」としています。有効性が期待できる他の治療が存在する患者さんに対して、それらの治療を先行させることなく体外受精・胚移植を安易に行うことに対する戒めであると解釈できます。

原因不明不妊

原因不明不妊の中には、実際に体外受精を行うと原因がわかる場合があります。

  1. 卵巣刺激をしても卵胞が育たない場合
    卵巣予備能が低下している状態です。原因は年齢、遺伝、免疫などが考えられます。卵巣刺激開始前のホルモン検査や超音波検査で、ある程度の予想が可能です。
  2. 検査ではわからなかったが、精子の能力に問題がある場合
    精液検査で精子数、濃度、運動率、奇形率が正常で、精子には問題ないと判断された場合でも、実際に体外受精を行うと、精子が卵子を囲んでいる透明帯という膜を通過できないなどの問題が起こることがあります。
  3. 卵子や精子の質に問題がある場合
    顕微授精を行って精子を卵子の中に人工的に直接送り、精子が透明帯を通過できても精子の核(遺伝子本体)が卵子の核と融合できないことがあります。つまり、授精ができない場合です。
  4. 卵子の質に問題がある場合
    授精ができても、受精卵が分割する段階で停止してしまう成熟障害があります。卵子の染色体の異常、加齢による卵子の質の低下(卵子の老化)などが原因です。
  5. 胚と子宮内膜、および両者の相互関係に問題がある場合
    良好な胚まで成熟して、それを子宮に戻しても(胚移植)妊娠にいたらない場合です。着床の問題は多くの研究者が解決に取り組んでいますが、クリアできない大きな問題の1つです。

排卵誘発

LONG プロトコール

ロングプロトコールは、確実に自分のホルモンを抑えながらhMGを使い、複数の均等な成熟卵胞を作ることを目的としています。

ロングプロトコールの流れ

  1. GrRHアナローグ(ブセレキュアやスプレキュア、ナサニールなど)を採卵する周期の前周期の高温期中期から使用します。
  2. 月経2~3日目頃からhMG(性腺刺激ホルモン)を連日注射します(平均10回程度)。
  3. 多数の卵胞が成熟し、そのうち2~3個の直径が18mmになったら、卵胞破裂と最後の卵子の成長を促すhCGを注射します。
  4. hCG注射後34~36時間後(卵胞破裂直前)に卵胞を穿刺し、卵子を採取します。

GnRH アンタゴニスト・プロトコール

GnRHアンタゴニスト・プロトコールは、hMGを使うことで複数の成熟卵胞を作ることを目的としています。ロングプロトコールで使うGrRHアナローグ(ブセレキュアやスプレキュア、ナサニールなど)の代わりに、GnRHアンタゴニスト(セトロタイド)を使い、下垂体から自発的にLHが出て勝手に排卵してしまうのを防ぎます。セトロタイドは欧米では一般的に使われていますが、日本ではまだ発売されていません。卵巣過剰刺激症候群の発生がGnRHアナログを使ったロングプロトコールよりも少ない、採卵日までの日数も短く、hMGの使用量が少なくなるという利点があります。

GnRHアンタゴニスト・プロトコールの流れ

  1. 月経2~3日目頃からhMG(性腺刺激ホルモン)を連日注射します(平均10回程度)。
  2. 主席卵胞が14mmになったら、採卵前日まで連日セトロタイドを注射します。
  3. 多数の卵胞が成熟し、そのうち2~3個の直径が18mmになったら、卵胞破裂と最後の卵子の成長を促すhCGを注射します。
  4. hCG注射後34~36時間後(卵胞破裂直前)に卵胞を穿刺し、卵子を採取します。

SHORT プロトコール

SHORTプロトコールは、フレア現象を利用しながらhMGを使うことで複数の成熟卵胞を作ることを目的としています。

SHORT プロトコールの流れ

  1. ブセレキュア(スプレキュア、ナサニール)を月経2日目昼から使用します。
  2. 月経2~3日目頃からhMG(性腺刺激ホルモン)を連日注射します(平均10回程度)。
  3. 多数の卵胞が成熟し、そのうち2~3個の直径が18mmになったら、卵胞破裂と最後の卵子の成長を促すhCGを注射します。
  4. hCG注射後34~36時間後(卵胞破裂直前)に卵胞を穿刺し、卵子を採取します。

OC-GnRH アナログ・プロトコール

OC-GnRH アナログ・プロトコールは、より強力にLH・FSHホルモンを抑え、適度な数の良質な成熟卵を作ることを目的としています。

  1. 月経の1日目からプラノバールを1日1回14日間内服します。
  2. 内服を始めて14日目(プラノバール最後の日)からブセレキュア(スプレキュア)を1日3回(ナサニールは2回)使用します。
  3. ブセレキュア(スプレキュア、ナサニール)を使い始めて4日前後でまた月経がきます。月経の3~4日目で受診してください。
  4. hMGの注射を始めます(連日10回程度)。
  5. 多数の卵胞が成熟し、そのうち2~3個の直径が約18mmになったら、卵胞破裂と最後の卵子の成長を促すhCGを注射します。
  6. hCG注射後34~36時間後頃(卵胞破裂直前)に卵胞を穿刺し、卵子を採取します。

Friendly IVF

Friendly-IVFは、GnRHアゴニスト(スプレキュア・ブセレキュア・ナサニールなど)を使用しない排卵誘発法です。GnRHアゴニストの下垂体や卵巣への抑制が少なく、採卵数は若干少なくなりますが、比較的良好卵を得ることができます。よって卵巣過剰刺激(OHSS)になりやすい人や、良好卵が得られにくい人によい方法です。

  1. 月経2日目よりアロマターゼ阻害剤(フェマーラ・アリミデックス)を1日1回5日間服用します。(または、月経1~2日目よりクロミフェンを1日2回5日間服用します。)
  2. 3日目頃より比較的少量のhMGを投与して、卵胞16~18mmになった時点でhCGまたはGnRHアゴニスト(ブセレキュア点鼻)を用いて排卵させます。早発排卵を抑えるためにGnRHアンタゴニスト(セトロタイド)を使用することもあります。
  3. hCG注射後、34~36時間後(卵胞破裂直前)に卵胞を穿刺し、卵子を採取します。

顕微授精

顕微授精について

顕微授精は、精子を顕微鏡で観察しながら、卵子に直接注入する体外受精の方法の1つです。重症男性不妊症や、通常の体外受精で受精しない症例(高度受精障害)の場合に行います。

ヒトにおける顕微授精は1988年に Cohen らが partial zona dissection (PZD、透明帯部分切除)による妊娠例を、Ng らが subzonal sperm injection (SUZI、囲卵腔内精子注入法)による妊娠例を報告しています.顕微授精はこのようにいくつかの改良が加えられました。 そして、1992年ベルギーの Palermo らが卵子に細い針を刺して、細胞質の中に直接精子を注入する卵細胞質内精子注入法(ICSI)による妊娠例を発表しました(図-1)。それ以前の透明帯と卵細胞膜の間に複数の精子を注入する方法(PZD, SUZI)より、妊娠率が高く、直ぐに顕微授精のグローバルスタンダードになりました。 現在では顕微授精といえばこの ICSI(略してイクシーと呼びます)のことを指すといってよいでしょう。 このICSIという方法は極端な言い方をすれば、1つの健全な精子があれば妊娠を可能にする治療法です。

顕微授精の適応条件

精子の数が少ない重症の乏精子症や精子の奇形率が高い、あるいは精子の運動能が低い精子無力症のように男性因子に大きな問題がある場合は、これまで妊娠する方法がありませんでした。その他、通常の体外受精で受精しない症例(高度受精障害)では、卵子の外側を包んでいる透明帯というゼリー状の膜がかたく、精子が通過できない場合があり、適応できるようになりました。具体的な顕微授精の適応条件は、以下の通りです。

  1. 重症乏精子症
  2. 精子無力症
  3. 精子奇形症
  4. 重症精子減少症、精子無力症および精子奇形症の合併症例
  5. 不動精子
  6. 精巣上体精子あるいは精巣精子による受精
  7. 精子―透明帯・卵細胞膜貫通障害
  8. 抗精子抗体陽性例

方法

顕微授精は採卵当日に行います。 以下が顕微授精の流れです。

  1. 顕微鏡下で運動性、形態的に良好な精子を回収します。
  2. その中から、一つの精子を選択して、精子尾部をガラス性の極細の針(注入用ニードル)を用いて不動化処理(受精率を上げるための処理)を行います。
  3. 精子を注入用ニードルに尾部から吸引します。
  4. 細い保持用針に弱く吸引圧をかけながら卵子を保持します。
  5. 準備ができた精子の入った注入用ニードルを慎重に卵子の細胞質まで穿針して、精子を卵子の細胞質の中に注入します。
  6. 翌日、受精の状態を確認します。

安全性・問題点

顕微授精は体外受精の方法の1つであるため、体外受精の問題点はすべて顕微授精にも当てはまります。それに加え、以下のような顕微授精の固有の問題点があります。

  1. 通常の妊娠と異なり、受精する精子は自然に選ばれるわけではない
    通常の妊娠では、女性の体内に放出された数億の精子の間で激しい生存競争があり、これに勝ち抜いた1個の精子のみが卵子と受精します。ただし、精子がすべて正常であるわけではありません。染色体(DNA)が一部壊れている場合もあります。約30%に異常があるといわれています。いずれにしても、きびしい淘汰で選ばれた精子が受精しています。顕微授精においては、これらのプロセスはすべて省かれ、数百の精子の中から、動きが良くて、形態的にも正常に見える精子を選びます。染色体的・遺伝子的に異常な精子が受精したとしても、分割途中で成長が止まり着床までは至らないか、もし着床しても流産すると考えます。
  2. 染色体異常についての報告数が少ない
    体外受精・顕微授精時の先天性奇形の発生頻度は、日本産科婦人科学会の調査によると、ほぼ0.7%前後を示しています。日本産婦人科医会が集計した2004年度の一般の先天性外表奇形発生率1.77%に比べて高いものではありません。

    染色体異常についてはまだ報告が少ないのが現状です。海外の報告では1.66%に染色体異常、0.92%に染色体構造異常、0.83%に性染色体異常を認め、一般新生児の頻度よりも高いことが示されています。
  3. 父親由来の造精機能に関する欠陥がこどもに遺伝する
    性染色体異常は極端な乏精子症・精子無力症・精子奇形症の合併症例です。造精機能に関連した遺伝子はY染色体に存在しますので、男児にその異常が継承される可能性があります。顕微授精が行われる以前には妊娠することがなかった疾患です。顕微授精で受精できるようになり、次世代に継承される可能性が出てきました。

結論として、今までのところ顕微授精で生まれた児において、父親由来の遺伝的欠陥が児に伝達されること以外、先天性奇形、染色体異常、発育異常が自然妊娠児より高いと言う確固たるデータはなく、児の長期予後についてはまだ判明していない点もあることをご了承ください。

多嚢胞性卵巣症候群

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は月経異常(排卵障害)を主体として色々な症状を呈する卵巣機能の異常です。 排卵できない未成熟な卵胞(卵巣の中にある卵子を育てる部屋)が、卵巣内に嚢胞状(袋状)にたくさんたまってしまうために多嚢胞性卵巣と言われます。生殖年齢の女性でしばしば見られる卵巣機能障害です。排卵障害のため不妊の原因となります。

原因

近年、PCOSはインスリンの働きと関連していると言われています。 インスリンとはすい臓が分泌するホルモンで、ブドウ糖を血液中から細胞内に取り込ませてエネルギーとして働くようにするホルモンです。PCOSではインスリンの働きが悪くなり、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込ませにくくなることから、より多くのインスリンが必要になる状態にあります。 これをインスリン抵抗性と言います。

インスリンの量が増加すると卵巣での男性ホルモンの産生が増加すると言われています。 しかし、まだわからないメカニズムもあり、現在研究が進められている状況です。

症状

臨床症状は月経異常(無月経、稀発月経、無排卵周期症など)があり、時に男性化徴候(多毛、にきび、低音声、陰核肥大)や肥満(約70%の方)を伴います。排卵障害があるため不妊になります。

ホルモンバランスの乱れ

通常脳下垂体は、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)をバランスよく分泌し、卵巣に作用することにより、卵胞の発育・排卵を促します。 PCOSでは、このうちLHの分泌が増えてFSHとのバランスの乱れがおこり、卵胞がうまく発育できなくなります。 排卵がおこらないと、排卵をさせようと更にLHの分泌が増えるため、ホルモンバランスの乱れがますますひどくなるという悪循環に陥ります。

男性ホルモンである血中テストステロンやアンドロゲンが高い値になり、男性化徴候(多毛、にきび、低音声、陰核肥大)が現れる場合があります。日本人は欧米人に比べて男性化徴候をきたす割合が低く、PCOS患者全体の30%程度です。

検査

超音波検査

超音波で卵巣の状態を検査します。PCOSでは男性ホルモンが高いために卵巣の表面が硬くなり、排卵しにくくなります。超音波検査により、排卵できずにたまった多数の卵胞(5mm程度)が確認できます。ネックレスのように並んで見えることからネックレスサインと呼びます。

採血によるインスリン抵抗性の検査

PCOSではインスリン抵抗性を呈することが多くなります。従って、糖負荷試験(75グラムの砂糖水を飲んで、30分後、1時間後、2時間後に採血を行い血糖、インスリン濃度を測定)を行い、インスリン抵抗性の有無を調べます。インスリン抵抗性がある方は将来II型糖尿病になる可能性が、インスリン抵抗性がない方に比べて3~7倍高いことが分っています。糖負荷試験の結果は、治療法を選択する上で重要です。肥満のある方は、体重減少を含めた全身的な治療が大切です。

治療法

排卵誘発

PCOSの7割の女性は排卵に問題があるため、不妊症になる可能性が高くなります。 卵胞の発育・排卵を促すために排卵誘発を行います。 内服の排卵誘発剤クロミフェン(セロフェン・クロミッドなど)を月経が始まった3~5日目より5日間服用します。8割の女性で排卵がおこります。クロミフェンにより排卵に至る卵胞は通常は一つですが、人により卵胞がいくつか大きくなり、複数排卵することがあります。 その際に妊娠が成立した場合の多胎率は約13%です。

FSH注射

排卵誘発剤の内服で排卵がおこらない場合は、FSHの注射により卵胞を育てて排卵を促します。 PCOSの場合は、排卵誘発を行うと卵巣が過敏に反応してしまい、卵巣過剰刺激症候群とよばれる副作用をおこしやすい傾向があるので慎重に進める必要があります。

手術療法

3つ以上の卵胞が排卵に至りそうな場合、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群の予防のため避妊をお勧めしています。 排卵誘発を使ってもなかなか排卵しない方には、手術療法を行います。腹腔鏡手術により、電気メスで卵巣の表面に小さな穴をたくさん開け、硬くなった卵巣表面を軟らかくすることで排卵しやすくなります。手術後約6ヶ月間は排卵が起こりやすくなり、妊娠が期待できます。それ以降はまた卵巣表面が硬くなり、排卵が起こりにくくなります。経過を観察して妊娠の希望がない場合は、月経を周期的におこすような治療を行います。 これには、カウフマン療法とよばれるホルモン療法や、低用量ピルなどのホルモン剤を使います。

メトホルミン

最近の研究でメトホルミン(商品名はメルビン・メトグルコ)というインスリンの効きを良くする薬が、排卵をおこすのに有効であることが分かりました。糖尿病の患者に使われている薬ですが、PCOSで排卵に問題がある女性に効果があることがわかりました。メトホルミンは、インスリン抵抗性が高血糖の原因と考えられるインスリン非依存型糖尿病の治療薬です。PCOSの病因は、卵巣内アンドロゲンやテストステロンなどの男性ホルモン濃度の上昇であり、機能性卵巣アンドロゲン過剰分泌と理解されています。インスリンは直接卵巣に作用して、卵巣内のアンドロゲン産生を促進する働きがあります。男性ホルモンの上昇は卵巣の皮膜を厚くするため排卵ができなくなると考えられております。PCOSの患者がメトホルミンを内服すると、卵巣を含めた色々な臓器でのインスリンの感受性が高まり、血中のインスリンが減少します。その結果、卵巣内のアンドロゲンが減少すると報告されています。クロミフェンのみでは排卵できなかった方でも、メトホルミンを併せて内服すると排卵できるようになる確率が高まることが分かっています。ただし、メトホルミンは糖尿病以外では健康保険の適応がないため自費になります。

基礎体温測定

基礎体温を継続して測定・記録し変動パターンを見ることで、月経周期の長さ、排卵の有無、排卵の時期、黄体機能の変化など様々な情報を得ることができます。おおまかな体温変動のパターンを見るだけでも参考になりますので、多少の変動は気にすることなく付けることを心掛けて下さい。不妊治療は基礎体温表を元に進めます。受診の際には忘れずに持参してください。

基礎体温の測定時間

基礎体温とは、体温上昇をきたすような活動のない状態の体温のことです。通常は朝目覚めた際、寝床から起きあがる前に測定することが理想的です。生活が不規則で、一定の時刻に安静を保った状態で体温を測ることが難しい方は、数時間でも睡眠を取った後に測定することでも参考になります。

タイミング療法

タイミング療法とは、妊娠しやすいタイミングを計って性交渉をもつことで、妊娠する確率を上げる療法です。排卵した卵子の生存期間中(卵子の生存期間は8~12時間もしくは12~24時間と言われています)に精子が卵管膨大部に着くように(精子は卵管の中で48~72時間生存していると言われています)性交渉のタイミングを計ります。

妊娠成立まで

妊娠が成立するためには卵管膨大部で排卵した卵子と精子が出会う(受精)必要があります。 受精した卵(受精卵)は分割しながら約1週間をかけて子宮に辿り着き、準備が整った子宮内膜の中に侵入定着(着床)して、妊娠が成立します。

適切なタイミング

妊娠しやすいタイミングを知るためには、排卵の時期を知る必要があります。通常は月経周期の14日目(月経が始まってから14日目)に起こる排卵日、もしくはその前日に性交渉をもつと妊娠しやすくなります。ただし、排卵の時期には個人差があるため、以下の方法で排卵時期を予想します。

  1. 基礎体温測定(基礎体温測定にリンク)
  2. 超音波検査による卵胞の大きさの測定(排卵に近いサイズは自然周期で直径15~25mm、排卵誘発周期は直径23mm以上)
  3. 血液中のエストロゲンの濃度を測定
  4. 頚管粘液の性状調査
  5. LHサージの測定

LHサージとは

LHとは脳下垂体から出るホルモン(黄体化ホルモン)のことです。LHサージとは、LHがパルス状に出る時期のことで、LHサージが始まってから24~36時間後に排卵が起こると言われています。

LHサージの測定

月経周期の12日目頃より毎日尿を試験紙(当院では医療用の試験紙を使いますが、市販のものもあります)につけて判定します。 陽性の判定が出た場合LHサージが始まったと判断し、その日か翌日に性交渉をもちます。 LHの基準値が高い方(多嚢胞性卵巣の方など)は、排卵時期に限らず陽性の判定が出る場合があります。 そのような方にはこの方法は使えません。

排卵が自然に起こりにくい方

排卵が自然に起こりにくい方(排卵障害)は、排卵誘発剤の内服もしくは注射により排卵を起こすように卵巣を刺激する必要があります。排卵誘発周期でも同じように排卵の時期を知り、タイミングを計ります。 性交渉をもった日、またはその翌日は性交後試験(フーナーテスト)に適した時期ですので、できれば受診してください。

性交後試験(フーナーテスト)

性交後試験(フーナーテスト)とは、性交渉後の頚管粘液や頚管粘液内の精子について調べる試験です。

調査項目

  1. 頚管粘液量
  2. 頚管粘液内の精子の数
  3. 頚管粘液内の精子の運動性
  4. 頚管粘液と精子の適合性

頚管粘液とは子宮頚管内膜の分泌細胞が持続的に分泌する粘液です。排卵期における頚管粘液の分泌量は通常の約10倍、含有水分量は通常92~94%のところ98%まで上がるため、排卵期以外の時期より子宮頚管内に精子が存在しにくい状態です。排卵期に精子の数を調査することで、精子と子宮頸管粘液の適合性を評価します。

調査手順

  1. 3~4日間の禁欲期間の後、排卵日に性交渉をもち、当日もしくは翌日に受診
  2. 頚管粘液を吸い取り、粘液量を計測
  3. 頚管粘液中の精子の数と運動状態を評価
  4. 粘液量が少ない / 粘液中の精子数が少ない / 精子の運動率が低い場合は異常と判断
    ※ 頚管粘液性状の異常や抗精子抗体が考えられる

精液検査の手順

不妊症の原因の約半数は、男性に原因があると言われています。精子が少なかったり、運動性が悪かったりすると妊娠が難しくなります。自覚症状があることは少ないため、精液の状態を調べることをおすすめします。詳細は「精液検査について」をご覧ください。

※ 女性パートナーが当クリニックに通院している方のみ予約可能です。男性の検査のみご希望の方は男性の妊活健診からお申し込みください。

予約

検査は予約制です。予約可能時間は下記を参照してください。
※ 初診日の検査をご希望の場合は、予約時にあわせて精液検査の予約をしてください。
※ 検査当日は、必ず検査を受ける方の保険証を持参してください。

検体持参の場合(自宅採精)

受付時間
9:00-12:00
14:00-16:00
16:00-18:00

院内採精の場合

受付時間
9:00-11:00
14:00-15:00
15:00-17:30

※ 予約件数に制限があります。

検査前にお渡しする物

① 検査容器 容器内は滅菌してあります。汚染防止のため精液採取時以外は開封しないでください。
② 検査容器貼付用シール 取り違え防止のため、ご夫婦の診察券番号、氏名(漢字フルネーム)、採取時刻を必ずご記入ください。精液検査・人工授精・体外受精・精子凍結など、用途によりシールの種類が異なります。
③ 短冊型シール(1枚) ご夫婦の氏名(漢字フルネーム)をご記入ください。
初診の方 採精室ご利用の方は来院時に①~③をお渡しします。自宅採精ご希望の方はお電話にて相談ください。
通院中の方 検査前日までのご来院時に①~③をお渡しします。

採取

採取場所

自宅、または採精室
※ 採精室をご利用の場合は、精液検査(院内採取)で予約してください。

採取手順

正確な検査を行うため、採取手順に従い精液採取を行ってください。

  1. 検査前3~5日程度、射精をしない期間を設けてください。
    ※ 運動率の低下などを引き起こすため、禁欲期間は1週間以内としてください。
  2. 射精1回分、全量を直接検査容器に入れてください。
    ※ コンドームなどから移し替えないでください。
  3. 検査容器貼付用シールに必要事項を記入し、検査容器の本体側面に貼ってください。
  4. 短冊型シール(1枚)は、ご夫婦の氏名(漢字フルネーム)を記入し、どこにも貼らず、そのまま検査容器本体と一緒に袋に入れてください。

※ 自宅で採精した方は、精液を採取してから2~3時間以内にご持参ください。
精液を冷やしたり、温めたりしないでください。

ご不明な点は「精液検査Q&A」をご覧いただくか、スタッフにお尋ねください。

ビタミンⅮ

ビタミンⅮは女性、男性とも不妊に関連しており、不足により妊娠率が低下することがあります。当クリニックでは採血によるビタミンⅮの測定を行い、不足している方にはサプリメントをお勧めしています。