[不妊治療]人工授精

人工授精

AIHとは

AIHは、女性の生殖器官(子宮、膣)の内に人工的に精子を注入することを言います。
配偶者(夫)の精子を注入する方法を配偶者間人工授精(artificial insemination with husband’s sperm,略してAIH) と言います。
非配偶者(夫以外の提供者)の精子を注入する方法を非配偶者間人工授精(artificial insemination with donor sperm, 略してAID)と言います。
AIDは限られた施設のみで行っております。
当院ではAIHのみを行っております。

AIHの方法

タイミング法のところで記しましたが、うまく受精するために、排卵した卵子が元気な時(排卵してからの卵子の生存期間は8~12時間と言われていますが、12~24時間とも言われています。)にAIHを行う必要があります。
適当なタイミングを知るためには排卵の時期を知る必要があります。
基礎体温は排卵のタイミングを知るのに非常に役立ちます。
月経が始まった日を月経周期1日目と言いますが、排卵は通常月経周期の14日目(月経が始まってから14日目)に排卵が起こります。
この時にAIHを行います。

しかし、排卵の時期は個人差があり、必ず14日目とは限りません。
また、同じ人でも周期により排卵の時期は変わります。
基礎体温では、過去の排卵がいつ起こったのかが分かりますが、そこから今周期の排卵がいつになるのかを予想するだけです。
特に月経が不順な方は基礎体温だけでは排卵日を知ることは難しいでしょう。
排卵の時期を知るためには、超音波検査により卵胞の大きさを測ったり、血液中のエストロゲンの濃度を測ったり、頚管粘液の性状を調べたり、脳下垂体から出るホルモン(LH:黄体化ホルモン)がパルス状に出る時期(LHサージと言われています。LHサージが始まってから24~36時間後に排卵が起こると言われています。)を知る必要があります。
月経周期の12日目頃より毎日尿を試験紙(当院では医療用の試験紙を使いますが、市販のものもあります。)につけて判定します。
判定が陽性に出たら、LHサージが始まった(厳密には既に始まっています。)と判断し、その日か翌日に性交渉をもってもらいます。
時に、LHの基準値が高い方(多嚢胞性卵巣の方など)では、この試験紙が排卵時期に限らず陽性に出てしまいます。
そのような方にはこの方法は使えません。

いずれにしても、まずは超音波検査で卵胞のサイズを測定して、排卵近いサイズ(自然周期では直径15~25 mm、排卵誘発周期では直径23mm以上)になったらLHサージを捕らえてAIHを行います。
ただし、タイミング法と違いAIHではより確実に排卵が起こるようにするために卵胞が十分大きくなったら、hCGの注射やGnRHアナローグの点鼻を行って頂き(人工的にLHサージを作ります)、翌日にAIHに持って行くことがあります。

また、排卵が自然には起こりにくい方(排卵障害)や排卵周期が不規則な方は、排卵誘発剤などを内服したり、または注射をして排卵を起こすように卵巣を刺激する必要があります。
このような排卵誘発周期でも同じように排卵の時期を知り、あるいはhCGの注射やGnRHアナローグの点鼻を行って AIHを行います。
AIH当日に採精して頂き、精子は洗浄の後、スイムアップ法(下の絵)により質の良い精子を回収します。
この処理には約2時間を要します。
AIHは下の絵に示しますように、細い注射器の中に精子を入れ、細いカテーテルチューブを子宮内に挿入して慎重に注入します。
注入後15分程骨盤を高くした状態で安静にしてもらいます。
タイミング法のところでも書きましたが、精子が卵管膨大部まで到達するのに要する時間は下記のようになっております。
AIHの場合はもう少し短い時間で精子は卵管膨大部に到達しますので、当日は激しい運動をしない限り普通の生活を送って頂いてよいと思います。
感染予防のため授精日から2日間は抗生物質を内服して頂きます。
できれば、2日後に来院して頂き超音波検査で排卵の有無を調べます。
排卵していない場合には再度AIHをすることもあります。
黄体機能検査をするために1週間後に超音波検査により子宮内膜の厚さを測ったり、血液中のプロゲステロン濃度を測定することもあります。
この検査で黄体機能不全が認められる場合には、次ぎの周期では黄体ホルモンの補充を行います。

「精子が卵管膨大部まで到達するのに要する時間」
Rubenstein et al 30分
Brown 60分
Settlage et al. 5分で確認、15~44分で卵管内の精子数は一定となる。

AIHの当日の朝に御主人に採精して頂きます。
自宅から2時間以内に精子を持参できる方は御自宅で採精したものを持ってきて頂きます。
そうでない方は当院の採精室にて採精して下さい(採精室を利用される方は予め予約をお願いします)。
自宅が近い方でも採精室のを利用できます。

適応

AIHをするに当たり、予め子宮・卵管などに異常がないことを確かめておく必要があります。
つまり、子宮では粘膜下筋腫、子宮腺筋症、子宮中隔、重複子宮などの構造的な異常(せっかく授精できても、育った受精卵、胚が着床できないことになります。)がないことを確認します。
確認は超音波検査、子宮卵管造影検査や子宮鏡検査で行います。
卵管の通過性はあるか(排卵した卵子が卵管の中に入れなければ授精できません。精子も卵管を上がって行くことができません。)、卵管水腫はないか(卵管の通過性が悪いと、卵管の中で作られた粘液が溜まってしまい水膨れの状態になります。)、卵管の周囲に癒着はないか、などです。
卵管の通過性は子宮卵管造影検査で診断できますが、卵管周囲の癒着の診断は子宮卵管造影検査では難しいでしょう。
正確な診断には腹腔鏡検査が必要ですが、腹腔鏡検査を受けるか否かは個別に判断することになります。
少なくとも、卵管の通過性があることの確認は必要です。

上記がない事が確認された方で

精子・精液の量的、質的異常

  • 乏精子症:精子濃度1500万/ml未満
  • 精子無力症:精子運動率40%未満
  • 乏精液症:精液量1.5ml未満

射精障害、性交障害

  • 逆行性射精:膀胱内に射精してしまい、精液が体外に排出されない疾患
  • 射精障害
  • インポテンツ、高度な膣狭窄などによる挿入困難

精子ー頚管粘液適合不全

  • 抗精子抗体陽性: 精子が子宮内でしたり、動けなくなります。
  • 頚管粘液分泌不全:精子が卵管まで到達する第一関門である頚管から先きへ進みにくくなります。
  • 性交後試験(フーナーテスト)陰性:精子の問題や頚管粘液分泌不全抗精子抗体陽性が考えられます。

機能性不妊

  • 夫婦ともに明らかな不妊の原因が分からず、かつ諸々の治療を試みても妊娠にいたらない場合。

また、夫にウイルス・細菌感染が認められる場合には精液を介して妻に感染してします場合があります。
また、子宮や卵管に感染がある場合にはAIHの刺激により感染が悪化することがあります。
そのような場合には感染の治療を優先させます。
細菌感染やクラミジア感染については抗生物質で対応は可能ですが、ウイルス感染(B型肝炎、C型肝炎などのウイルス、HIV、その他未知のウイルス)については対応は難しくなります。
AIH時の精子処理では精子の洗浄を行いますが、通常の性交渉に比べてAIHがそれらのウイルスに感染するリスクを高くするのか低くするのかについてのデータは見た事がありません。
AIHを実施する前、夫婦で十分話し合い、これらのウイルスの検査を希望される方は申し出て下さい。
検査結果が出るまでに約1週間は必要ですのでAIHを受けることが決まったら直ぐにその旨をお知らせ下さい。
実施項目は血清梅毒反応、B型肝炎ウイルスS抗原、C型肝炎ウイルス抗体、HIV抗体、クラミジア抗体です。

HIVに関しては日本産婦人科学会より、「現状では精漿よりHIVを完全に除去する方法が確立されていないことを鑑み、HIVに罹患した夫から採取した精液を用いたAIHを行う場合には、当該夫婦から感染の可能性を含めた十分なインフォームド・コンセントを得るとともに、実施にあたっては1例ごとに施設内倫理委員会で審査を受けることが望ましい」との通達が出されています(平成15年1月17日付)。
また、「新しい生殖医療技術のガイドライン(改定第2版)」(2003年)では「近年、HIV除去技術が進歩し、感染確率が極めて低くなったことを受けて、本邦でもHIV感染男性精液を用いたAIHや体外授精が試みられている。
しかし一方、安易な方法のもとでのAIH実施により、妻が感染した例も発生したとの報道もみられた。
本法の実施は、HIV定量が可能な専門施設で行うべきものと考える。」(丸山哲夫・吉村泰典)とあり慎重な対応は必要です。

副作用

AIHに際しておこる副作用は

出血

子宮内腔から出血することもありますが、子宮頚管が細かったり、屈曲している方の場合には子宮頚部を鉗子で把持して少し引き気味にします。
鉗子で把持する際に出血することがほとんどですので、ほとんどは一過性でおさまります。

疼痛

原因としてはカテーテル挿入に伴うもの、鉗子を使った場合、子宮の一過性の収縮、腹膜刺激症状(注入液が卵管から腹腔内に漏れために起こる刺激症状)があります。
安静によりほとんどは軽快します。
必要な場合には鎮痛剤を用います。

感染

子宮、卵管、腹腔内に感染が起こる可能性があります。
予防的に抗生物質を2日間内服して頂きます。
それでも下腹部痛、発熱、異常な帯下などの感染症状がでた場合には受診して下さい。

成績

全体の妊娠率は周期当たり5~20%と報告されております(Duran HE ら、Hum. Reprod. Update 8:373-384,2002).

このグラフを見て頂くと、5~6回のAIHで妊娠に至らない場合には、腹腔鏡などによる原因検索や体外授精のようなより高度な治療が必要であると考えます。
ただし、患者様の年令や考えなどの要因を考慮して、個々に対応します。

一例

  • 月経5日目より5日間クロミフェンを内服します。
    その2~3日後に受診して、頚管粘液の性状、超音波検査にて卵胞の大きさ、子宮内膜の厚さを測ります。
    時に採血をして血液中のエストロゲン濃度を測定します。
    卵胞が十分大きくなっていれば、尿検査によりLHサージ(脳から出る排卵の指令)が起こっているか否かを調べます。
    LHサージが起こっていれば翌日にAIHを予定します。
    LHサージがまだ起こっていないようでしたら、hCG5000-10000単位の注射かGnRHアナローグの点鼻を行い翌日にAIHを予定します。
    卵胞がまだ十分大きくなっていない場合は適当な日に(通常は1~3日後)に受診して頂き同じような検査をします。
  • AIH当日 採精した精子の検査・処理を行います。
    準備ができたら患者様には診察台に上がって頂き、AIH(調整精子の注入)を行います。
    約15分、骨盤を高くした状態で安静にして頂き終了です。
    抗生物質を1日3回2日間内服していただきます。
  • 2日後に超音波検査で排卵の有無を確認します。
    排卵せずにまだ卵胞が残っていたら状況により、再度AIHを行います。
  • 約1週間後に超音波検査で子宮内膜の厚さを測定します。
    また、血中プロゲステロンの測定を行い黄体機能検査を行います。

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